PR:本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。価格・在庫・仕様は変動するため、最新情報は公式・販売ページでご確認ください。
渾身の力を込めて執筆し、某薬学雑誌に投稿して1か月。
業務終了後の疲れ切った体で、スマホの通知を開いたときのことです。
件名:投稿論文不採択決定のお知らせ
メールの中身を確認する前から、胸がざわつきました。
震える手でメールを開封すると、そこには厳しい評価が書かれていました。
「Reject(不採択)」
「新規性に乏しい」
そして、極めつけは……。
「コメントはありません。」
たった一人の査読者だけが前向きな言葉をくれましたが、当時の私にはその言葉が届きませんでした。
「Reject」と「コメントなし」という評価が、まるで「あなたの論文には価値がない」と言われているように感じたからです。
それからの半年は、本当に苦しかったです。
食事中も、お風呂に入っているときも、ベッドに入ってからも、論文のことが頭から離れませんでした。
「でも、この症例は臨床現場の薬剤師の働き方に、きっと意味があるはずだ」
その一心で、私は諦めませんでした。
ターゲットとなる雑誌を変え、信頼できるメンターを探し、査読コメントと向き合い、泥臭く修正を重ねました。
その結果、2回のRevision(修正依頼)を経て、最終的にAccept(採択)を勝ち取ることができました。
この記事では、一度は「新規性がない」と評価された症例報告をAcceptまで持っていくために、私が実践した査読対応の考え方を整理します。
症例報告や実践報告を投稿してリジェクトされ、心が折れそうになっている病院薬剤師の方に向けて、少しでも参考になればうれしいです。
※本記事に掲載している査読コメントや回答例は、個人・施設・投稿先が特定されないよう、一部を要約・改変しています。
この記事でわかること
- リジェクトされた症例報告をどう立て直したか
- 掲載誌を変えるときに考えたこと
- 査読者コメントへの向き合い方
- 査読回答書で使える表現例
- Limitationを使って弱点を整理する考え方
- 論文投稿に必要な文献検索環境の重要性
なぜリジェクトされたのか|掲載誌との相性を見直す
最初に考えたのは、リジェクトされた理由です。
もちろん、論文自体に改善すべき点はありました。しかし、メンターと相談する中で、もう一つ大きな問題に気づきました。
それは、投稿先の雑誌と論文のメッセージが合っていなかった可能性です。
最初に投稿した雑誌は、学術的な「新規性(Novelty)」を重視する傾向があるように感じました。
一方で、私の症例報告で伝えたかったのは、極めて珍しい疾患や新しい治療法ではなく、現場の薬剤師がどのように関わり、診断や治療に貢献できたかでした。
そこで、次に投稿する雑誌は、学術的な新規性だけでなく、現場での「実用性」や「薬剤師業務への示唆」を評価してくれそうな雑誌に変更しました。
この経験から、症例報告では以下の視点が重要だと感じました。
- その雑誌は新規性を重視しているのか
- 実践報告や症例報告を積極的に掲載しているのか
- 想定読者は研究者なのか、臨床現場の薬剤師なのか
- 自分の論文の価値が、その雑誌の読者に伝わるのか
リジェクトされたからといって、症例そのものに価値がないとは限りません。
掲載誌との相性が悪かっただけという可能性もあります。
査読者は「敵」ではなく、論文を良くするための助言者
別の雑誌に再投稿する前に、前回投稿した雑誌で唯一いただいた査読コメントを見直しました。
そこには、厳しい言葉だけではなく、論文を良くするためのヒントも含まれていました。
- 「早期の標準治療につなげた、非常に意義のある症例報告です」
- 「一般的な薬剤師にも伝わるように、専門用語や画像所見には丁寧な説明が必要です」
- 「誰が培養検査を提案したのか。薬剤師の貢献をもっと明確に書く必要があります」
このコメントを読み直して気づいたのは、査読者は単に否定していたのではなく、「読者に伝わる論文にするための修正点」を示してくれていたということです。
その後、メンターに出会い、4回の論文指導を受けました。
文章の構成、薬剤師の貢献の見せ方、図表の必要性、Discussionの焦点などを修正し、次の雑誌に再投稿しました。
再投稿から約2か月後、1回目の判定はRevision(修正依頼)でした。
またダメかもしれない。
最初はそう思いました。しかし、よく読むと、そこに書かれていたのは「ここを直せばもっと良くなる」という建設的な指摘でした。
査読者1:「このテーマは非常に有用です。しかし、なぜ一般的な薬剤師ではなく、あなたである必要があったのですか。薬剤師としての存在意義をもっと明確に書いてください」
査読者2:「誰が何を行ったのかが曖昧です。もっと『薬剤師の貢献』を具体的に書いてください。薬剤師の活躍に直接関係しない図は削除してもよいと考えます」
前の雑誌では「コメントなし」で終わりましたが、次の雑誌では違いました。
査読者は、私の論文に対して「薬剤師の貢献をもっと読者に伝わる形にしなさい」と教えてくれていたのだと思います。
「図を削除してもよい」という指摘も、意地悪ではありません。
むしろ、論文全体の焦点がぼやけないように、一番伝えたいメッセージを尖らせるための助言でした。
もちろん、査読者は私のためだけに存在するわけではありません。
それでも、いただいた指摘を感情的に受け止めるのではなく、論文を良くするための助言として読み替えることで、対応の仕方が変わりました。
この瞬間、査読者は「敵」ではなく、私の論文をAcceptに近づけてくれる助言者に変わりました。
マインドセット
- 査読コメントを読んだ直後は、感情的になりやすい
- すぐに返信せず、まずは一晩置く
- 指摘を「人格否定」ではなく「論文改善の材料」として読む
- 査読者は、無給で自分の論文を読んでくれていると考える
査読回答書は「感謝」と「敬意」から始める
査読回答書の冒頭には、必ず感謝と敬意を示しました。
査読者は、日常業務や研究活動の合間に、私たちの投稿論文を読み、改善点を示してくれています。
厳しい指摘であっても、まずはその労力に対して感謝を伝えることが大切です。
私は実際に、査読者コメントへの返答を以下のような文章で始めました。
査読者の先生へ
この度は,本稿にご多忙の折にもかかわらず貴重なお時間を割いていただき,丁寧なご査読と的確かつ建設的なご指摘を賜りましたこと,心より厚く御礼申し上げます.
先生からいただいたご意見は,いずれも本報告の論点をより明確にし,その臨床的意義を深める上で大変有益なものであり,真摯に受け止めております.
つきましては,ご指摘いただきました各項目について,修正原稿にどのように反映したかを含め,以下に回答させていただきます.
このように、冒頭で感謝と敬意を示すことで、回答全体の印象が変わります。
査読回答書は、単なる反論文ではありません。
査読者と一緒に論文を完成させるための対話文だと考えると、言葉の選び方も変わります。
【査読対応術①】感情を抑えて、真摯に向き合う
2回のRevisionで最も意識したのは、感情的にならず、真摯に向き合うことでした。
査読者からの指摘には、納得できるものもあれば、最初は受け入れにくいものもあります。
それでも、まずは「ご指摘いただきありがとうございます」と受け止め、修正できる部分は素直に対応しました。
【事例:記載の細かさを指摘された場合】
症例報告では、日常業務で使っている略語や簡略表記が、そのままでは不十分と判断されることがあります。
■ 査読者からの指摘
「今回は症例報告であるため,より詳細な記載が必要と考えます.用法と剤形について記載不足が多数見られますので,正確な記述をお願いします.」■ 回答例
記載不足をご指摘いただき,ありがとうございます.症例報告として,より正確な情報を提供するため,原稿中の薬剤について,剤形,1回量,用法を可能な限り詳細に記述するよう修正いたしました.
自分自身にとって納得できる指摘であれば、素直に対応した方がよいです。
その方が、論文の完成度も上がりますし、査読者にも「指摘を真摯に受け止めている」ことが伝わります。
【査読対応術②】譲れない点は、感情ではなく論理で説明する
一方で、査読者の指摘にすべて従えばよいわけではありません。
論文のメッセージを伝えるうえで重要な図表や記載であれば、削除せずに残す必要がある場合もあります。
ただし、その場合も感情的に反論するのではなく、なぜ必要なのかを論理的に説明することが大切です。
■ 査読者からの指摘
「図XXは本論文での薬剤師の業務に直接関与しない結果のため不要と考えます.」
■ 回答例
図XXの必要性についてご指摘いただき,ありがとうございます.先生のご指摘の通り,図XXは薬剤師の業務そのものを直接示すものではございません.その観点からご不要とのご意見,ごもっともに存じます.
一方で,図XXは本症例の臨床的背景を視覚的に示し,なぜ薬剤師による介入が重要であったかを理解するための前提となる情報を提供すると考えております.
この理由から,本症例の全体像と薬学的介入の臨床的意義を読者に理解していただくために,図XXは残す方向でご検討いただけますと幸いです.
先生からいただいたご指摘により,本報告における図表の位置づけを改めて整理することができました.重ねて深く感謝申し上げます.
“`ポイントは3つです。
- まず相手の指摘を認める:いきなり反論せず、「ご指摘の通り」と受け止める
- 必要性を読者目線で説明する:自分が残したいからではなく、読者理解に必要だから残す
- 最後は感謝で締める:反論した後ほど、敬意を丁寧に示す
「残します」と断言するのではなく、「残す方向でご検討いただけますと幸いです」と書くことで、角を立てずに自分の意図を伝えやすくなります。
- 査読者コメントと自分の回答が区別できるように、回答部分はインデントを付けて書く
- 修正箇所は「p.〇, L.△△-××」のように、ページと行番号で示す
- 修正なしの文章は黒字、修正した文章は赤字などで示し、変更点がわかるようにする
- 単に「修正しました」ではなく、なぜそのように修正したのか意図も説明する
【査読対応術③】弱点はLimitationとして認める
査読対応で特に難しかったのは、論文の弱点を突かれたときです。
2回目のRevisionでは、以下のような指摘を受けました。
修正により、役割分担や連携の流れは明確になり、読みやすくなりました。
しかし、結論部分の「連携のハブとなることが有用」という主張は抽象的です。
タイトルからは、この領域の専門薬剤師にしかできない高度な介入が期待されますが、実際に行われた提案は、知識があれば他部署の薬剤師でも可能な提案です。
この独自性の弱さが、本論文の限界(Limitation)でしょうか。
これは、かなり鋭い指摘でした。
「あなたの介入は、知識があれば誰でもできることではないか」と核心を突かれたからです。
ここで無理に反論するのは危険だと感じました。
そこで私は、「おっしゃる通りです。それが本論文の限界です」と認めたうえで、「それでも、この環境で実践したことに意義がある」という形に整理しました。
この度は,前回のご指導に続き,再度貴重なお時間を割いて詳細なご検討をいただき,誠にありがとうございます.
“`また,本論文の核心的な価値と限界に関わる,鋭く本質的なご指摘を賜りましたこと,心より感謝申し上げます.
先生がご指摘くださったように,今回提示した介入内容自体は,知識があれば他部署の薬剤師でも実施可能な提案であったことは事実でございます.
したがいまして,先生の「この点が本論文の限界ではないか」というご指摘は,まさに的を射たものであり,私どももそのように認識しております.
本症例報告の意義は,介入内容の高度な専門性そのものよりも,薬学的知識をもつ薬剤師が当該環境に関与し,情報のハブとして機能したことで,結果として治療方針の検討や薬物治療の適正化に貢献できた点にあると考えております.
この症例報告単独で,薬剤師の専門性や独自性を強く論証することには限界があり,その点を本論文のLimitationとして追記いたしました.
“`弱点を無理に隠そうとすると、かえって論文の説得力は落ちます。
一方で、弱点をLimitationとして整理すると、読者に対して誠実な論文になります。
症例報告では、単一症例であること、一般化に限界があること、薬剤師の介入とアウトカムの因果関係を強く証明できないことなど、どうしても限界があります。
だからこそ、限界を認めたうえで、その症例から何を学べるのかを明確にすることが大切だと感じました。
引用文献で査読回答を強くする
Revision中は、回答期限との戦いでもありました。
査読者を納得させるには、感情ではなく根拠が必要です。
そのためには、引用文献を素早く探し、必要な記述を確認し、自分の回答や本文修正に反映する必要があります。
ここで役立ったのが、自宅の医学書や読んだ論文をデータ化したデジタル書斎でした。

私は、iPadやScanSnapを使って、医学書や文献を検索しやすい形に整理していました。
そのため、査読コメントを読んだときに「あの本に似た記載があった」「あの論文で根拠になりそうなデータがあった」と思えば、キーワード検索で素早く探すことができました。
査読対応では、文献を探す速さが回答の質に直結します。
時間をかけて探せば見つかる文献でも、回答期限が迫っている中では、検索できる環境があるかどうかで大きな差が出ます。
Acceptされた後にも確認すべきことがある
Acceptの通知が届いたときは、本当に安心しました。
ただし、論文はAcceptされて終わりではありません。
その後には、校正、掲載料、別刷り、著作権譲渡、共著者への報告、職務経歴書への記録など、確認すべきことが残っています。
初めて論文がAcceptされた方は、アクセプト後の流れも早めに確認しておくと安心です。
関連記事:
論文がアクセプトされた後にやること|校正・掲載料・共著者連絡・実績化まで解説
Acceptに近づけた背景には、メンターの存在があった
正直に言うと、私がリジェクトからAcceptまでたどり着けたのは、査読対応のテクニックだけのおかげではありません。
独りよがりになりがちな原稿を、客観的に見直してくれるメンターの存在がありました。
自分では伝わっていると思っていた薬剤師の貢献も、第三者から見ると曖昧でした。
自分では必要だと思っていた図表も、読者にとっては論点をぼやかす原因になっていました。
そのような点を客観的に指摘してもらえたことで、論文の焦点を絞ることができました。

でも、うちの病院には研究指導をしてくれる先輩がいない…
そう感じる方もいると思います。
私自身も、最初から院内に十分な研究指導体制があったわけではありません。
今後の記事では、コネなし・実績なしの状態から、どのように院外のメンターを探し、指導を受けることができたのかも整理したいと考えています。
まとめ|リジェクトは終わりではなく、軌道修正の合図
「新規性がない」「ただの業務報告に見える」
そんな言葉でリジェクトされると、自分の薬剤師としての業務まで否定されたような気持ちになることがあります。
しかし、今回の経験を通じて感じたのは、リジェクトは終わりではなく、軌道修正の合図だということです。
この記事で紹介したポイントは、以下の3つです。
- 掲載誌との相性を見直す:新規性で勝てないなら、実用性や読者への有用性で評価される場所を探す
- 査読者を敵にしない:感謝・敬意・論理で回答し、指摘を論文改善の材料にする
- 弱点はLimitationとして認める:無理に反論せず、限界を整理したうえで症例の価値を伝える
どんなに厳しいコメントでも、見方を変えれば「掲載に近づくためのヒント」になります。
もちろん、すべての論文が必ずAcceptされるわけではありません。
それでも、掲載誌を見直し、査読コメントと向き合い、根拠を補強し、Limitationを整理することで、論文の価値を伝えやすくすることはできます。
あなたのデスクに眠っている症例は、もしかすると、どこかの臨床現場で困っている薬剤師や患者さんの役に立つ「原石」かもしれません。
一度リジェクトされたからといって、磨くことを諦める必要はありません。
絶望から這い上がり、Acceptのメールを受け取る感動を、次はあなたが経験できることを応援しています。



コメント